何が最も効果的な学習手法か?

このページでは、研修の実施を検討しておられる人財育成のご担当者さまへ、目的に応じた効果的な手法を考えていただくため、改めて研修の定義と手法一覧とその分類、各メリット・デメリット、より効果的に実施する方法を解説いたします。

研修=人財育成

研修とは何であろうか?
 
弊社が定義する企業研修とは、従業員のスキルや思考・行動の研鑚、または会社の理念、業務、商品についての理解深耕を通じ、人材育成という観点から組織の理念浸透、課題解決、目標達成、または個人の能力開発やビジョン実現に対して寄与する学習機会のことである。
 
研修を設計する上で最も大切なことは、研修を企画・設計する目的が「従業員の育成が、最終的に企業の持続的な発展に寄与する。」という信念と、長期的な視点を持つことである。
研修を受講する意義を「研修=売上・業績の向上」、すなわち「研修を受けて、こんなにも業績が向上しました。」という短期的かつ偏った指標で効果測定をすることは、「育成」が主眼となり難い。
 
売上・業績の向上を最大の目的とするのであれば、営業に特化した研修を行ったり、IT化によってマーケティングシステムを導入したり、事業戦略の構築などの戦略コンサルティングを依頼することが近道となる。ただしこれらは莫大な費用がかかり、状況によっても結果が左右される。
 
研修の指標として大切なことは、どれほど受講生が育ったか、組織の風土が変化したかということであり、以下の観点が用いられることが多い。
・会社への帰属意識や理念の浸透度
・行動変容や意識変革
・個々人の資質や能力、スキルの向上
・社内のコミュニケーションの活性化など健全な社風となったか
 
さて、あなたが企画しようとしている研修は、本当に人財育成の場であろうか。 

研修手法の分類と一覧

研修は、OJT(実際の仕事を通じたトレーニング)とOff-JT(仕事の場から離れ学習する機会)に分けることができる。
 
ここでは弊社が定義する研修の、特にOff-JTの学習手法について、弊社25年以上の人材育成の実績から体系的整理を試み、自社の理念や学習させたい内容に応じて、「何が最も効果的な学習手法か?」を再考いただく機会とさせていただきたい。
 
研修の分類として、学習内容、例えばスキル別、職能別、階層別といった切り口で紹介されているものは検索すると見つけることができるが、研修手法について研究されたものは少ない。
 
研修の手法には、 大きく分けて二つの形態が存在する。
対面型と非対面型である。
対面型の研修手法には、さらに座学と体感型がある。
ここでは対面型の座学と体感にオンラインを加えた、研修手法の三形態(座学・体感・オンライン)について、詳しく解説していく。

どのような研修手法が存在するか?

Off-JT 研修手法

研修手法の三形態(座学・体感・オンライン)

・対面型
 ◯知識提供型研修
  ◯座学、講義、講話
  ◯ケーススタディ
  ◯アセスメント
 ◯実践型研修
  ◯アクションラーニング
  ◯体験型研修
   ◯チームビルディング
   ◯経験学習
   ◯ロールプレイ学習
  ◯コーチング
・非対面型
 ◯オンライン研修
  ◯非同期型eラーニング
   ◯動画配信
   ◯マイクロラーニング
  ◯同期型リアルタイム・オンライン研修
   ◯知識提供型
   ◯実践型

知識提供型研修

知識提供型研修とは、講師の講義や講話を主体とし、受講生は講義を聞くことで理解を深め、自分に引き寄せて考えることで行動変容を促そうとするものである。研修の場だけではなく学校教育であっても一般的に最も認知・採用されている教授法である。
 
より効果的に実施するためには、受講生との対話やグループワークなどを盛り込みながら受講生の注意を惹きつけ、具体的な事例を語り、受講生自身がそのテーマにおいての課題意識を持たせることが重要である。また、研修の最後には個人で獲得した知識を使って目標設定やアクションの設定を行い、知識活用の定着を促すことも実施される。
大人数に効率的かつ機会平等に学習を進めることができる。導入的な内容解説、普遍的な理論、スキルの体系的な知識獲得が可能である。
 
知識提供型研修によって、効果的に学習できる内容は、基礎知識の学習、ノウハウ、講師の体験談などで、ビジネススキルについて、マス教育が必要な普遍的なあり方を見直す内容が有効である。しかし、より踏み込んだ内容であれば、実践型研修の方が効果的であることが多い。
またケーススタディによって、成功事例や失敗事例の研究、コンプライアンス研修をはじめとするどのような判断が求められるのかという事例研究、また経理財務研修などでは他社のバランスシートや事業内容などを研究し、知識理解を深める学習方法が存在する。
マス教育であっても個にフォーカスを試みる観点から、アセスメントによって個人の行動や資質など数値化やタイプ分けを行い、個人の内省を促すものが存在する。ストレングスファインダーやエニアグラム、弊社も採用しているIDコンパスといったアセスメント・プロファイルが存在する。
 
以下、知識提供型研修のデメリット・デメリットについて整理する。
〇 メリット
・大人数が平等に学習できる
・効率的である
・失敗する可能性が少ない
・アカデミックで権威的な印象を関係者に与えることができる
・少ない講師の人数で実施することができる
・オンライン研修にも応用しやすい
 
〇 デメリットや留意点
・グループワークを盛り込まなければ、淡々とした印象となりやすい
・効果よりも効率を重視し、実施することに意義を見出してしまうことがある
・講師による力量や教材の良さによって効果が左右される
・受講生の課題意識や集中力の欠如によって、眠ってしまったり全く効果が出ないことがある

実践型研修

実践型研修とは、受講生の実践を中心に学習を進める学習手法である。アクティブラーニングとして学校教育や最近では学習塾にも展開がはじまっている。
講師ではなく受講生の行動に主体を置いていることが、知識提供型研修との最も大きな違いである。
受講生中心に学習を進め、受講生の知識や経験といったすでに受講生が持っているリソースが教材となることが多い。
知識提供型がTeachingと表現できることに対し、実践型はTrainingと表現することができる。
 
実践型研修にも数多くの形態が存在する
・アクションラーニング
 - 課題解決型
 - 新規事業提案型
・体感型研修
 - チームビルディング
 - 経験学習
 - ロールプレイ学習
・コーチング
 - 自律的キャリア形成
 - 目標設定と達成に向けて

アクションラーニング

アクションラーニングは、実際の仕事上の課題や経営課題を研修の場に持ち込み、課題解決や戦略の立案などを通じてマネジメント能力や事業構想力を鍛える手法です。
3か月以上の期間で実施することが多く、最終的なアウトプットを報告する場の設定など、社内を広く巻き込む必要が出てきます。
 
新規事業提案型のアクションラーニングでは、育成と事業化、どちらが目的なのかをはっきりさせる必要がある。
育成が目的であって、事業化することができないのであれば、受講生が労力をかけて検討したことが事業化検討の機会すらなく、途中でモチベーションがなくなることがある。
育成目的で新規事業提案をするのであれば、良い提案であれば部署移動を含めた実現性とそのための会社全体の巻き込みを考慮に入れることが大切である。
事業化が目的のアクションラーニングであっても、当初期待したほどの提案がなかったり、成功する確率は低く、リスクが伴ったり長期化することも理解しておかなければならない。
 
弊社の育成で、過去実際に新規事業提案が実現したことがあります。
事業化において不可欠な特徴は次の通りである。
・ 受講生自身のVisionが明確で、提案に関与している
・ 研修後、受講生が諦めずに社内提案し続けた
・ トップの理解やコミットメント
 
すなわち、アクションラーニング内に、自分自身の志を明確にするワークやリーダーシップなどのヒューマンスキルを強化するセッション、受講生間の心理的障壁をできる限り早い段階で取っ払いチーム内のコミュニケーションを闊達にし、また受講生がやり切る覚悟を持つためのチームビルディングが大切となる。

体感型研修

・チームビルディング

チームビルディングは、組織の結束力、コミュニケーションの向上、風土変革を目的として実施される手法で、アクティビティと呼ばれる身体を使った課題解決活動や、登山、ロッククライミング、キャンプ、料理、ものづくりなど、共通体験から得られる効果を用いてねらいを達成させる手法です。
ただし、安全管理や体験した学びを仕事への引き寄せなど、体験を体験で終わらせない運営側の能力が求められます。
場合によっては何のためにその体験をやっているのか受講生が見失うこともありますので、意識付けが欠かせません。
 
弊社でもチームビルディング研修を得意としており、リーダーシップ発揮のゴールの1つとして定義しています。
結束を保持する8つの機能や、組織のMission、Vision、Values、共通のゴール構築を、実践と体験によって創出することができます。
次世代リーダーを対象に行われるイノベーター育成のための事業提案型研修におけるチームビルディングでは、受講生が都市開発事業・公益事業などの新規事業を創出しました。総合コンサルティング企業やシンクタンクの事業開発プログラムにもチームビルディングプログラムとして取り入れられています。
 
チームビルディングの効果を最大化するためには、ねらいを絞ることが重要となります。なぜチームビルディングを行うのかを明確にし、どこに課題があるのかという事前の分析が大切です。
また、その課題をどのような体験と仕掛けによって、どのようにして自分たちで気付いていくのかというプログラムの設計も大事になります。
すなわち事前の分析と綿密な設計にすべてがかかっています。
効果的なチームビルディングの設計には、訓練と経験が必要です。
またファシリテーターによるファシリテーション力も大変重要となってきます。
効果的なファシリテーションについては、こちらのページにまとめております。

〇 留意点
・ 参加者間のフィードバックを導入することで、相互理解がより促進される。 
・ 職場内でのチームビルディングは、上下関係に配慮する必要がある。
・ 女性や体力のない方に対しての配慮が不可欠
・ 安全管理の技術が不可欠
・ いきなりはじめるのではなく、アイスブレイクなどを実施し、徐々に場をあたためていくことが必要
・ 何を持ってしてチームビルディングのゴールとするのか、あらかじめ決めておかなければやりっぱなしの体験となりやすい

経験学習

経験学習は、リーダーシップなど個人に帰属するスキルの強化を目的として活用される学習方法です。具体的には、ビジネススキルが必要な課題解決や、疑似体験、ビジネスゲームなどを実際に受講生が取り組み、自分やチームが得た経験を振り返り、意味づけを行ったり抽象化を行うことで、本質的で大切となる概念を理解し、自分自身のスキルの向上や行動様式の棚卸を行います。
チームビルディングと混同されがちですが、体験そのものに力点を置いているわけではなく、経験への意味付けに主眼を置くことが違いです。
経験学習によってもっとも効果的に学習できる内容はリーダーシップです。リーダーシップは知識だけでは発揮することができず、実践と経験によってのみ学ぶことができるものです。
 
弊社では、非日常型の体験型アクティビティを活用した疑似体験でのリーダーシップトレーニングを得意としております。そのルーツは軍隊のリーダーシップトレーニングにあり、座学で学んだリーダーシップでは、戦場で有意義に発揮することができなかったという教訓にあります。
詳細は行動学習のページでご紹介いたします。

・ロールプレイ学習

営業やビジネスマナーなど、お客様役や上司役など受講生がなりきって演じることで、トレーニングです。実際の業務で起こりうる状況を交互に役割を繰り返し、練習すると同時にポイントや失敗事例などを目の当たりにし、学習を深めます。
メンター研修やコーチングスキルを学ぶ研修にも効果があります。

・コーチング

コーチングは、受講生自身が目標達成できるように自発的行動を促進させる対話を中心とした働きかけです。「教える」といったアドバイスをすることはせず、本人が気付いていないことを問いかけによって整理し、表出化することが重要です。
研修の場ではいくつかセッションが分かれた中間のフォローなどに活用すると効果的に研修効果を発揮定着することができます。

知識提供型研修と実践型研修の対比

知識提供型研修実践型研修
講師主体受講生主体
TeachingTraining
講師は、講師講師は、ファシリテーター
教授気付き
短期的長期的
比較的安価比較的高額
大人数で実施可能少人数の方が効果的
教材は繰り返し使用可能都度準備に手間がかかる
効率を重視効果を重視
プロセスが安定している変化がつきもの
受講生に左右されない受講生に影響を受ける
講師によって満足度が変化作り込みによって満足度が変化
受講生を引き込む話術が必要安全管理など特殊な技術が必要

「何が最も効果的な学習手法か?」という問いに答えるのであれば、最も効果的なのは実践型研修であるが、効率性や価格、その他条件が許されればという条件付きの学習手法となる。

非対面型研修

新型コロナウイルス防疫対策によってオンライン研修の需要が拡大しています。
通常の研修実施のノウハウとは別の知識・技術が必要です。

非同期型eラーニング

教材をサーバやクラウドに保存し、受講生はネット環境下で学習をすすめます。
自分の都合で学習をすすめることができますが、受講生の意欲によっては後回しにされることもありますので管理に工夫が必要です。
動画配信は教材作成には手間がかかりますが、一度作成すると数量に関係なく配信できるメリットがあります。
マイクロラーニングでは隙間時間を使って学習を進めることをねらいとしたものです。

同期型リアルタイム・オンライン研修

zoomやMicrosoft Teams、Google Meet、webEXに代表されるWEB会議ツールを使用したリアルタイムのオンライン研修です。
こちらも知識提供型と実践型でわけることができますが、オンラインでは知識提供型に偏ってしまうことがあります。非同期型と比べて優位な点としては、質疑応答などがリアルタイムででき、学習へのモチベーションも比較的高い状態が維持できます。
ただし通信環境の安定性やツールの使いこなしなど運営側のITリテラシーが求められます。
 
実践型のオンライン研修では、小グループにわけるブレイクアウトセッションなどを使用し、参加者間でディスカッションを中心に進めたり、sharepointを使った共同編集で学習を進めることができます。
ただし、出来る限りブレイクアウトセッションの数だけファシリテーターを用意する必要があったりするので、集合研修以上に人員が必要です。
 
弊社では実践型のオンライン研修の積極的な開発に取り組んでおります。
公開型オンライン研修 みんなのリーダーシップを実施しております。

以下実践型のオンライン研修を効果的に実施する上での注意点を共有します。
 
〇 受講生の人数
小グループ5名以内が適切人数。
人数が増えすぎるとかかわれなくなる方がでてくる。
 
〇 事前と事後
事前に資料は共有し、受講生の接続環境にトラブルがあった場合も対処できるようにする。
また、資料を読めばわかるような単純な知識などは事前に共有して読み込んでもらうなど、オンラインの時間をできるだけ濃密な時間となるようにする方が良い。
 
〇 実施時間
3時間で終了するものが望ましい。それ以上は分散して日を変えるなど、日程の工夫が必要である。
研修中は、ずっと画面をみたり、ヘッドセットをつけたりする必要があるので、受講生の身体的負担が大きい。
一時間ごとに休憩をうまく挟むなど、工夫が求められる。知識提供型があまりに続くと飽きがくることもある。
また、実施15分以上前に、接続テスト時間を設けるなどすると、当日の開始がスムーズとなる。

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